みちびき/QZSSでGNSS測量はどう変わる?
みちびき/QZSSでGNSS測量はどう変わる?
みちびき(QZSS)は「日本版GPS」としてテレビなどのメディアにも大きく取り上げられ、話題となりました。
みちびきによって測量の分野での精度はどう変わるのか?
このページでは、みちびきの特徴とGNSS測量の精度について解説します。
みちびき/QZSSとは?
みちびき(QZSS)は日本が打ち上げた衛星測位システム。
現在は初号機を含めた4機が打ち上げられており、2018年11月から4機体制でのサービスがスタートしました。2024年には7機体制での運用が計画されています。
「日本版GPS」とも呼ばれるみちびきですが、地球全体をカバーするアメリカのGPSシステムとは違い、みちびきは日本を中心とした一部地域をカバーする補助的なシステムです。
みちびきで他のGNSSシステムを補うことで、日本周辺地域での衛星測位サービスの強化・安定供給を目的としています。
日本の上空に長く留まる準天頂軌道
みちびきは日本の上空で8の字を描く軌道(準天頂軌道)を周回する3機と、赤道上の静止衛星1機の計4機で運用されています。
この8の字を描く特徴的な軌道は、衛星が日本の真上を通過する時間が長くなるように設計されており、 GNSS測量で衛星の電波が受信しやすい仰角70度以上の空を、3機のみちびきが8時間おきに順番に通過していきます。
GNSS測量に適した衛星配置が実現
GNSS測量は、4機以上の衛星の電波を受信して高い精度の測量を行います。しかし、各国の衛星が常に日本に都合の良い位置にあるとは限りません。
みちびきは特殊な衛星軌道により仰角70度以上=日本のほぼ真上にある状態が維持されるため、衛星の電波をほぼ遮られることなく受信でき、測量の精度を安定させることができます。
GPS衛星との互換信号を発信
みちびきは複数の信号を発信していますが、中でも測量に使用するL1、L2の2つの周波数の信号は、アメリカのGPS衛星と互換性をもっています。
そのため、みちびきの電波は従来の測量機でもGPS衛星と同じように受信することができ、常に日本で使いやすい位置にあるGPS衛星が増えた状態で測量が出来るようになりました。
みちびきで何が変わる?
いま、みちびきが工事測量に与える影響は1つ。
それは、
GNSS測量の精度が安定する
ということです。
みちびきで他のGNSSシステムを補うことで、日本周辺地域での衛星測位サービスの強化・安定供給を目的としています。
ニュースを見た印象から、「精度が良くなるんじゃないの?」と思った方も多いのではないでしょうか。
実は、みちびきで現場レベルのGNSS測量の精度はあまり変わらないのです。
現場でよく実施されるGNSS測量(RTK-GNSS測位/VRS方式)の測位精度は誤差3~4センチほど。
そして残念ながら、みちびきを使ってもこれ以上の精度が出るわけではありません。
しかし、みちびきによって改善した問題もあります。
みちびき運用で改善したGNSS測量の問題点
GNSS測量には、測量を行う技術者にはどうしようもない問題で、通常の精度が出せず数十センチの誤差が出てしまう時があります。
その精度低下の原因となるのが、下記の2つの問題です。
- 衛星配置が悪く、受信できる衛星が少ない時間がある
- 都市部や山間部でマルチパス誤差が起こりやすい
この測量誤差の原因となる2つの問題点がみちびきによって改善したことで、GNSS測量の精度はより安定したものとなりました。
誤差の原因(1) 衛星配置が悪くて受信できる衛星が少ない
GNSS測量では4機以上の衛星の電波を同時に受信することで精度を確保しているため、受信できる衛星が少ない時間帯は高い精度での測量が行えません。
2019年5月時点で、約130機のGNSS衛星が地球の周りをまわっていますが、そのうち日本で電波を受信できる位置にある衛星はごく一部です。しかも衛星は受信しやすい仰角の高い位置にあるとは限らず、仰角の低い衛星の電波はビルや山などの地形に遮られる確率が高くなります。
みちびきで改善
みちびきは、電波を受信しやすい日本の真上に長く留まる軌道を通ります。
精度を確保するために必要な衛星の電波を受信しやすくなったことで、衛星配置に左右されない安定した精度で測量できるようになります。
誤差の原因(2) マルチパスの発生
マルチパスとは、衛星の電波が山などの起伏のある地形やビル(建物)に反射して、複数の電波のように受信してしまう現象です。
反射した電波は正常に受信した電波よりも受信時間がわずかに遅くなります。
GNSS測量は、衛星が電波を発信した時間と測量機で受信した時間を位置情報の計算に使用するため、 反射して遅れた電波を受信してしまうとGNSS測量の距離計算に誤差が発生し、測位精度が低下してしまうのです。
この反射による誤差をマルチパス誤差と呼びます。
みちびきで改善
仰角の低い位置にある衛星の電波は、ビルや地形にぶつかりやすくマルチパスを受信してしまう可能性が高くなります。
みちびきは日本のほぼ真上、電波の反射が起きにくい仰角の高い位置に長くとどまるため、マルチパス発生のリスクを下げることが出来ます。
ここまでの結論
精度は変わらないが、安定した精度で測量できる
いかがでしたでしょうか?
みちびきは、他国のGNSSシステムを利用する上での欠点を補間する役目をもっています。
これにより、現場条件によっては大きな誤差が出ていた環境でも、安定した精度で測量できるようになりました。
次はさらに、みちびき独自のサービスである「センチメーター級測位補強サービス」と、GNSS測量機のみちびき対応についてご説明します。
センチメータ級測位補強サービス(CLAS)
みちびきは、GPS互換信号以外にも「センチメータ級測位補強サービス」という独自サービスの提供しています。
これはGPS衛星との互換性を持たないL6信号による、みちびき独自の国内向けサービスです。
地上の管制局で国土地理院の電子基準点観測データから補強情報を計算し、みちびきを経由してL6信号で配信。この補強情報を利用することでセンチメータ級の測位精度を実現する、PPP-RTK測位と呼ばれる技術です。
PPP-RTK法とは?
RTK-GNSS測位は基準点(基地局)から10km以上離れると誤差が大きくなるのが欠点ですが、PPP-RTK測位では基準点無しで測量することができ、基準点からの距離による制約がありません。
基準点がいらない既存のGNSS測量ではVRS方式(ジェノバ社の有料サービスを利用した測量方法)がありますが、みちびきのセンチメータ級測位補強サービスは電波を受信できれば無料で利用できます。
また、インターネットに接続する必要があるVRS方式と違い、衛星から直接補正情報を受信するため、インターネットに接続できないエリアでも利用できます。
センチメータ級測位補強サービスでも精度は変わらない
そして残念ながら、このみちびき独自のサービスを利用しても、RTK-GNSS測位以上の精度(誤差3~4cm)が出せるわけではありません。
GNSS測量機のみちびき対応
みちびきのGPS衛星互換信号は、既存のGNSS測量機で受信することができます。そのため、GPS衛星の電波を受信できる測量機はすでに「みちびき対応の測量機」といえます。
そして、GNSS測量機が「みちびきに対応していない」という場合、みちびきの電波を受信できないのではなく、 センチメータ級測位補強サービス(CLAS)に対応していない、ということになります。
このサービスの肝となるL6信号はGPS衛星と互換性が無いため、互換性があり従来機でも受信できるL1(1575.42MHz)、L2(1227.60MHz)に加え、L6(1278.75MHz)の複数周波を同時に受信する必要があるのです。
そもそも、なぜ複数の周波数を受信する必要があるの?
GNSS測量で最も大きな誤差を生むのが、衛星の電波が電離層を通過する際に発生する遅延による誤差。
この電離層誤差を補正するためには、2周波の電波が必要不可欠です。
電離層誤差とは?
測位衛星の電波は、地上からおよそ100km~1,000kmにある電離層を通過する際、通過速度に遅延が発生します。
マルチパス同様、この速度の遅れが距離計算に影響し、GNSS測量の誤差となります。
この誤差は、1機の衛星から発せられる周波数の違う2つの信号を利用することで改善することが出来ます。
2周波GNSS測量で電離層誤差を補正
2周波受信できるGNSS測量機の特徴は、電波が電離層を通過する際に発生する誤差を補正できる点です。
1周波の観測では電離層誤差が半分程度まで低減できる電離層遅延推定データ(KLOBUCHARモデル)を使用しますが、2周波観測では周波数によって異なる電離層での屈折量から誤差をより正確に補正します。
GNSS測量機は2周波受信できる機種が主流
GNSS衛星は、複数の異なる周波数の電波を複数発信しています。
GNSS測量機のアンテナには、1つの周波数のみ(主に1575.42MHz)を受信できるものと、2つの周波数を受信して測量できるものがあり、測量の分野ではより高い精度で測量できる2周波以上受信可能な測量機が主流です。